Vol.06 | 格闘家 / 小比類巻 貴之

Vol.06 | 格闘家 / 小比類巻 貴之

「試合の前日に自分に手紙を書く」

インタビュアー:
NANAMI (アソビシステム) / 清水真輝 (BACHIC ASHLEY プロデューサー)

ゲスト:
格闘家 / 小比類巻 貴之

格闘技界のレジェンドである小比類巻さんに「こだわり」を伺いました。


「言葉にならない感動、魂と魂のぶつかり合い。」

清水:
小比類巻さんは、厳しいことで有名な黒崎道場に通っていたというのはみなさん結構ご存知だと思いますが、毎日腕立て伏せ1,000回、4時間ローキックの練習をしていたのは本当ですか?
小比類巻:
これは、朝腕立て伏せは1,000回やってましたね。
清水:
1,000回。
小比類巻:
はい、これは本当にやってたんですよ。そのあとにサイドステップって、右に行ったり左に行ったり。これを1時間今度やるんですね。
清水:
1時間。
小比類巻:
だから右右、左左、右右、左左みたいなのをずっと1時間やって、これで上半身と下半身を鍛えてということは朝練でやって。そのあとに、昼食べてから午後練始まるんですけど。その当時は、トレーニング1人でやってたんですよ。道場に1人しかいなかったので、サンドバッグが僕の親友みたいなものなんです。そのサンドバッグに向かって、4時間ひたすらサンドバックを蹴り続けてました。
NANAMI:
練習ストイックすぎて倒れちゃったりしたことないんですか?
小比類巻:
先生から「水を飲むな」って言われた時が1回あって。4日間かな、本当に取れなかったときがあったんですね。そのときは、やばいと思ったときがありました、練習中。
NANAMI:
練習してる間も取らない?
小比類巻:
取らなかったんですよ。でも、先生と約束をしてたんで「水飲むな」って言われて、「わかりました、飲みません」ってやって、でも練習してると絶対汗かくじゃないですか。汗かくと、水分取りたくなるじゃないですか。僕は、その時水は取らなかったんですけど、先生にこっそり水じゃなかったら良いんだよな。ひねくれてるんで。水じゃなかったら良かったんだよなっていってロードワーク、要は外に走ってきますって1時間走るんですね。その時にちょっと小銭を持って、走るロードワークのコースのところに果物屋があるんですよ。そこに行くと桃がおいしそうに売ってて。水分が1番なの桃だと思って、桃を2つ買って、2つ持ってそれで公園まで行って洗ってそれをかぶりついて、走るっていうのが僕にとっては最高の時間でしたね。
NANAMI:
格闘技の指導者としても有名選手を数々指導されてきたと思うんですけど、格闘技のこだわりを教えていただけたらなと思うんですけど。
小比類巻:
そうですね、格闘技の良いところは技と技を出し合うんですけど、そこに言葉にならない感動というかお互いが持ってる魂と魂のぶつかり合いがあるんですね。これを出せる選手っていうのはすっごく感動するんですよ。
清水:
見てる側の感動が違うということですね。
小比類巻:
はい。例えば僕だったら、試合の前の日寝る前に、自分に手紙を書くんですよ。その手紙っていうのは、明日自分の気持ちで絶対に倒れないとか明日いろんな方が来てくれるその人たちにこういうところ見てほしいとか、いろんなことを紙に書くとこれがそのまま入って、それがそのまま試合に出るんですね。そうすると、この人なんで殴られてるのに倒れないんだろうとか、なんでこんな足痛いのに蹴り続けるんだろうかな。でもそこには何かがあるっていうふうに見てくれるんですよ。そん時に自分は絶対に自分の気持ちでは倒れないとかこの人にもこの人にもこの人にも感謝して今の自分がこのリングに立ってるんだとか。そんなのが出てくるんですね。だからそこはもう、必ずチャンピオンになるんだとかそういったところではなかったんですよね

編集後記

身体を極限にまで鍛え上げた格闘家が語る、魂のぶつかり合い。それは力では決して到達できないものでした。 試合に対する想いやシナリオ、周りへの感謝の気持ちを手紙に認める。言葉では言い表せれない感動を具現化する為に自身に言い聞かせる。小さなことさえ惜しまない格闘家の努力と信念があるからこそ、観客は固唾をのみ、熱狂するのでしょう。

小比類巻さんの拘り。そこには人を魅了する真の格闘家の姿がありました。

小比類巻貴之

現役時代K-1 WORLD MAX日本代表決定トーナメントにおいて史上最多3度の優勝を誇る、ISKAオリエンタル世界スーパーウェルター級王者。現在は、指導者、解説者、そして格闘技イベント『Executive Fight』のプロデューサーとして格闘技界の発展に貢献されています。